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「水ぼうそう」の頃(第2話)

 ~前回から続く


「じゃあ、ココがベッドです。トイレはこの右奥、これがナースコールです。
トイレに行く時はこのコップを持って、お小水を取ったら名前の書いてある箱に入れておいてください。
入院に必要なものがこの紙に書いてありますから、あとでお家のヒトに届けてもらってください。
そして、ここに、保証人の方、ご家族以外の方のお名前とハンコを・・・・」


 看護婦さんの声は、どこか遠くの方で鳴っているラジオのように思えた。



 6人部屋の入り口のベッドだった。



 夕食も摂れず、倒れこんだ。



 高熱で意識が朦朧としてるのだが、体中痛くてよく眠れない。


 夢と現(うつつ)の世界を行ったり来たり。

 抽象的な悪夢を何回も見る。


 呼吸は荒く、自分のうめき声で目が覚める。



 しばらく、うなされた後、ふと、尿意を覚え、トイレに行きたくなった。



 今、何時だろう。



 どこかその辺に置いたはずの腕時計を探そうとしたがあきらめた。



 いつの間にか「消灯」になっており、あたりは薄暗い。



 ナントカ、起き上がる。

 ふらついて立ち上がるのも大仕事だ。



 トイレは、確か右と・・・。



 あ、コップ、コップ。


 「コップに尿をとる」ってのがプレッシャーになって、
何回も尿をとる夢を見たような気がする。



 ふらふらと廊下に出るが、わずか十数メートルのはずが、果てしなく遠い。


 壁伝いにナントカたどり着き、ことを済ませ、また帰りが大変だ。


 どんなに頑張っても全然病室までたどり着けない。


 冬山でテントまであと10メートルのところで遭難しちゃうってこんな感じだろう。



 ともかく膨大な時間と労力を費やして
(実際、どれくらい時間がかかったかわからないが)
自分の寝場所に倒れこんた。
 

 しかし、以前、高熱でうめき続けていた(らしい)。



 ふと、気づくと看護婦さんの姿がベットサイドにあった。


「小倉さん、楽になる様に注射をしましょう。」


 どうやら、あまりに苦しそうな私の様子に、
これはヤバそうだ、と隣りのベッドの患者さんがナースコールしたらしい。


「ヴェノピリン、ですか?」

「そうです。」


「ヴェノピリン」とは、今は使われていないが、「静脈注射用」のアスピリンで、
内服よりはかなり強力な解熱鎮痛作用がある。


 ヴェノピリンだろうが、覚せい剤だろうが早く楽にしてくれー。

「お、お願いします。」

「ちょっと、我慢してくださいね。あっ、ごめんなさい。」

「へ?」

「もれちゃったので、もう一回します。」


 自慢じゃないが、私、血管出るのが自慢で、
医学生同士の採血練習でも、みんな楽勝だったのに。



 それにしても、注射もれてもその痛みが全然わからないくらい弱っちゃっていたようだ。





 しかし、残念ながらそのヴェノピリンでも全然熱が下がらないまま、翌朝を迎えたのだった。


 ~まだまだ続く



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プロフィール

おぐぐー

Author:おぐぐー
昭和60年群馬大卒
開業医4人を中心としたロックバンドC.R.P.のリード・ボーカル&ギター担当
浦和レッズ・オフィシャル・サポーターズ・クラブ会員
家族:妻(耳鼻科医)1男1女1犬(柴犬)
http://ogujibi.com/

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